胃がん内視鏡手術とは?適応条件・方法・術後の生活を解説

胃がんと診断されても、すべての人が胃を切除するわけではない。がんが胃の粘膜にとどまっている早期の段階であれば、内視鏡だけでがん部分を取り除き、胃をほぼそのまま残せる場合がある。それが内視鏡的粘膜下層剥離術、通称ESD(イーエスディー)だ。ただし「早期だから必ず内視鏡で治療できる」というわけではなく、大きさや深さ、細胞の性質など複数の条件を満たす必要がある。この記事では、内視鏡手術がどのような治療なのか、誰が対象になるのか、外科手術との違い、入院から術後生活までの流れを順に整理する。

胃がんの内視鏡手術とはどんな治療か

胃がんの内視鏡手術で最も広く行われているのが、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)である。口から内視鏡を挿入し、胃の内側からがんのある粘膜層を専用の電気メスで少しずつ剥がすように切除する。開腹手術や腹腔鏡手術のようにお腹に傷をつくらず、胃そのものを外から切り取ることもしない。あくまで胃の内側から、がんを含む範囲だけをくり抜くように取り除く方法だ。

この方法の最大の特徴は、胃をほぼ温存できる点にある。胃を切除すると食事の量や消化のしかたが大きく変わり、術後の生活に影響が出やすい。ESDであれば胃の形はほとんど変わらないため、体への負担や術後の食生活への影響が比較的小さく済むことが多い。

一方で、内視鏡手術には明確な限界もある。内視鏡は胃の内側からしか操作できないため、周囲のリンパ節を取り除く「郭清」はできない。つまり、がんが粘膜より深く入り込んでいたり、リンパ節に転移している可能性が少しでも疑われたりする場合には、内視鏡手術だけでは治療として不十分になる。適応できる範囲が限られているというのは、この治療法を理解するうえで欠かせないポイントだ。

内視鏡手術の対象になる条件(適応)

内視鏡手術の対象となるのは、基本的に「粘膜内にとどまる早期胃がん」である。がん細胞が胃の壁のごく浅い層(粘膜層)にとどまっている場合、リンパ節への転移が起きている可能性は低いと考えられており、内視鏡だけでの切除が検討される。

ただし、粘膜内にあるというだけで自動的に適応になるわけではない。実際の判断では、次のような要素が総合的に考慮される。

  • がんの大きさ(一般に大きすぎる病変は適応外になりやすい)
  • 深達度(粘膜内にとどまっているか、粘膜下層まで及んでいないか)
  • 組織の分化度(細胞の性質。分化型か未分化型かによって転移のリスクが変わる)
  • 潰瘍の有無(潰瘍を伴う病変は適応の範囲が狭まることがある)

これらは事前の内視鏡検査や生検である程度予測されるが、正確な深達度や分化度は、実際に切除した組織を病理検査にかけて初めて確定することも少なくない。つまり、内視鏡手術を受ける前の診断は「おそらく内視鏡で治療できる範囲」という推定であり、術後の病理結果を見て最終的に治療が完結したかどうかを判断する、という二段階の流れになっている点は覚えておきたい。

病理検査の結果、想定より深く進行していた、あるいはリンパ節転移のリスクが高いと判明した場合は、内視鏡手術のみでは不十分と判断され、外科手術など追加の治療が検討される。適応の判断は担当医と病理医が慎重に行うものであり、患者自身が自己判断で「これは内視鏡で治るはずだ」と決めつけないことが大切だ。

内視鏡手術と外科手術(開腹・腹腔鏡)の違い

内視鏡手術と外科手術の最も根本的な違いは、リンパ節郭清を行うかどうかにある。外科手術では胃の一部または全部を切除するとともに、周囲のリンパ節も併せて取り除く。これはリンパ節への転移の可能性がある場合に必要な処置であり、内視鏡手術ではこの部分を補うことができない。

この違いは、入院期間や体への負担、その後の経過観察のあり方にも影響する。一般的な傾向を整理すると次のようになる。

比較項目 内視鏡手術(ESDなど) 外科手術(開腹・腹腔鏡)
切除範囲 粘膜内の病変のみ 胃の一部または全部+周囲組織
リンパ節郭清 行わない 行う
体への負担 比較的小さい 相対的に大きい
入院期間の目安 数日程度のことが多い 1〜2週間程度かかることが多い
胃の機能 温存されやすい 切除範囲に応じて変化する
術後の経過観察 定期的な内視鏡検査が中心 内視鏡に加え画像検査なども組み合わせることが多い

入院期間や回復までの期間はあくまで目安であり、年齢や持病、切除範囲、術後の経過によって個人差が大きい。特に外科手術は、腹腔鏡下手術か開腹手術かによっても負担の程度が変わる。どちらが優れているというものではなく、がんの進行度や個人の状態によって適した方法が異なる、という理解が正確だ。

手術の流れと入院期間の目安

内視鏡手術を受ける前には、病変の範囲や深さを詳しく調べるための検査が行われる。内視鏡検査で病変を観察し、必要に応じて生検を行うほか、CT検査でリンパ節や他臓器への転移の有無を確認する。これらの結果をもとに、内視鏡手術の適応があるかどうかが判断される。

手術当日は、多くの場合、鎮静剤を使って眠った状態、あるいはうとうとした状態で内視鏡を挿入し、粘膜下層に薬液を注入して病変を浮かせながら少しずつ切除していく。かかる時間は病変の大きさや部位によって幅があり、短時間で終わることもあれば、数時間を要することもある。

術後は一定期間、絶食となるのが一般的だ。切除した部分が胃の壁の一部であるため、傷の状態を見ながら段階的に水分、流動食、軟らかい食事へと戻していく。食事再開のタイミングは施設や個人の回復状況によって異なる。

入院期間は数日程度で済むケースが多いとされるが、切除範囲が広かった場合や、出血・穿孔などの合併症が起きた場合には延びることがある。これも個人差が大きい部分であり、目安として捉えておくのがよい。

リスク・合併症と術後の病理結果でわかること

内視鏡手術は開腹手術に比べて体への負担が小さいとはいえ、合併症のリスクがゼロになるわけではない。代表的なものに出血と穿孔(胃壁に穴があくこと)がある。頻度は病変の大きさや部位、患者の状態によって異なり、一律の数字で語れるものではない。担当医から事前に、想定されるリスクとその対処法について説明を受けておくことが望ましい。

手術が無事に終わっても、それで治療が完結したとは限らない。切除した組織は必ず病理検査に回され、がんの深達度、大きさ、分化度、切除の断端(切り口)にがん細胞が残っていないかなどが詳しく調べられる。この結果が、事前の予測どおりであれば経過観察に移行するが、想定より深く進行していた場合や、リンパ節転移のリスクが高いと判断された場合には、外科手術による追加治療が検討されることがある。

つまり、内視鏡手術は「受けて終わり」ではなく「病理結果を待って初めて次のステップが決まる」治療だと理解しておくと、心の準備がしやすい。結果を聞く前から過度に不安になる必要はないが、追加治療の可能性がゼロではないことは知っておいたほうがよい。分からないこと、不安なことは、遠慮せず担当医に質問しておくことをすすめる。「もし追加治療が必要になったらどんな選択肢があるか」を事前に聞いておくと、いざというときの心の負担が軽くなる場合もある。

術後の生活で気をつけたいこと

胃をほぼ温存できるとはいえ、粘膜の一部を切除した直後の胃は傷が治る過程にある。退院後しばらくは、一度にたくさん食べるのではなく、少量をゆっくり、よく噛んで食べることが勧められる場合が多い。刺激の強い香辛料やアルコール、極端に熱い・冷たい食事を控えるよう指導されることもある。どの程度の期間、どんな食事の工夫が必要かは、切除範囲や個人の回復状況によって異なるため、担当医や管理栄養士の指示に沿って進めるのが基本だ。

運動についても、退院直後は激しい運動や重い荷物を持つ動作を避け、体調を見ながら徐々に日常の活動量に戻していくのが一般的な考え方である。仕事への復帰時期も、デスクワークか体力を使う仕事かによって変わってくるため、担当医と相談しながら決めるとよい。

内視鏡手術のあとに特に重要なのが、定期的な内視鏡検査によるフォローアップだ。ESDでリンパ節郭清を行っていない以上、粘膜内に取り残しがないか、別の場所に新たな病変ができていないかを、時間をおいて確認し続ける必要がある。フォローアップの間隔は個々の状態によって医師が判断するが、自己判断で検査を先延ばしにしないことが再発の早期発見につながる。

退院後、みぞおちの痛み、黒っぽい便、めまいや強いだるさといった症状が出た場合は、出血など何らかのトラブルのサインである可能性がある。こうした症状が出たときにすぐ連絡できる窓口(病院の相談窓口や夜間の緊急連絡先)を、退院前に確認しておくと安心だ。

FAQ

内視鏡手術で胃を残せるのはどんな場合か

がんが胃の粘膜内にとどまっており、大きさや分化度などの条件から見てリンパ節転移の可能性が低いと判断された早期胃がんが対象になる。ただし最終的な確定は、切除した組織の病理検査結果を見てから行われる。自分の病変が該当するかどうかは、検査結果をもとに担当医が判断するものであり、事前に自己判断することはできない。

入院期間はどれくらいか

内視鏡手術のみであれば、数日程度で退院となることが多いとされる。ただし病変の大きさや部位、合併症の有無、個人の回復状況によって幅があり、施設によっても方針が異なる。正確な目安は、事前の説明時に担当医に確認しておくとよい。

内視鏡手術後に再発することはあるか

内視鏡手術は病変を取り切れたと判断されても、粘膜内に取り残しがあったり、胃の別の場所に新たな病変ができたりする可能性はゼロではない。だからこそ、術後の定期的な内視鏡検査によるフォローアップが重要になる。再発の可能性やそのリスクの程度は個人によって異なるため、一般論ではなく自分自身のケースについて担当医と話し合っておくことが大切だ。

内視鏡手術と外科手術、どちらが良いか迷ったらどうすればよいか

どちらが優れているという単純な話ではなく、がんの進行度、大きさ、分化度、患者本人の体力や希望などを踏まえて選択される。迷いや不安がある場合は、それぞれの方法のメリットと限界、追加治療になる可能性、術後の生活への影響について担当医に具体的に質問し、必要であればセカンドオピニオンを検討するのも一つの方法だ。治療方針は最終的に患者本人と医療チームが一緒に決めていくものであり、国や医療機関によって推奨される診療の枠組みが異なる場合もあるため、自分が治療を受ける医療機関や、自国のがん診療に関する公的機関の情報も確認しておくと判断の助けになる。

By Gan (がん) |